多変量セルラーオートマタによるシナリオシミュレーション

 セルラオートマタの誕生は1940年代まで遡ります。結晶の成長について研究していたスタニスワフ・ウラムが単純な格子ネットワークを使用して作ったモデルを元に,自己複製機械の研究をしていたジョン・フォン・ノイマンが作り上げたのが,セルラオートマタです。以後,数多くの研究者によって研究がなされ,様々な分野で応用されるようになっています。

セルラオートマタの例で,最も良く知られているのは,おそらくライフゲームです。ライフゲームは,生命の誕生、進化、淘汰などのプロセスを簡易的なモデルで再現したシミュレーションなのですが,その名にゲームと付くように,単純なルールで模擬生命体の描く模様が時々刻々と複雑に変化していくことから,パズル的な要素も持っています。

このように,セルラオートマタは,単純なルールで複雑なシミュレーションを行うことが可能です。ある境界条件の下で支配方程式を解くように定量的で精緻な結果を得ることは困難ですが,ルールの設定を適切に行うことで,比較的信頼性の高いシミュレーション結果を得ることができます。また,セルラオートマタは,知見の不足している情報や不確実性を含んだ状態で定性的なシミュレーションを行うことができるため,シナリオ解析等に適した手法であると考えられます。

多変量セルラオートマタとマルチエージェント

 QJサイエンスでは,地層処分場付近で起きる様々な物理・化学現象をシミュレートするために,相互に関与し合うような複数の状態変数を有する多変量セルラオートマタを使用しています。異なる状態変数間の関係は,物理現象や化学現象などを元に,単純な関係式や定性的な対応関係によるルールで定められています。セルラオートマタでは,このルールの設定が最も重要であり,シミュレーション結果にも大いに影響を与えます。

また,あるルールに基づき処分施設内を移動し,あるルールに基づき状態変数に影響を与える複数のエージェントを施設内に配置しています。これをマルチエージェントと呼んでいます。例えば坑道を掘削したり,埋め戻したり,廃棄体を定置したりと,セルラオートマタでは実現不可能な要素をシミュレーションに取り込むことがマルチエージェントで可能となります。

 下図は多変量セルラオートマタとマルチエージェントの概念図です。平面上に6×5のセルで構成される場(処分場)があり、その個々のセルは状態変数A,B,C,・・・がそれぞれ値を持っています。概念的には、6×5のセル平面が状態変数の数だけ用意されていて、状態変数間の関係式によって、タイムステップ毎に値が変化していきます。さらに、その平面上をエージェント(赤い玉)があるルールに則って自由に移動し、状態変数の値を変化させます。概念図で描くと無機的に見えますが,実際には,ライフゲームの例でも分かるように,状態変数やエージェントが有機的に時々刻々と変化していく様が見受けられます。

このように、精緻で定量的な計算のできる連成解析とは全く違った解析の手法ですが、連成解析では解決できない領域を補完するために、このシナリオ解析手法が採用されています。

解析実績

  • 廃棄体定置後の人工バリアの温度変化
  • 放射性廃棄物の定置と埋め戻しに関するシミュレーション

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